「DC電源ラインにノイズが乗り、センサーやA/D変換の値が安定しない」
「EMI試験で規格値をオーバーしてしまい、量産に進めない」
「フィルタ部品を追加しても、DC電源のノイズが思うように下がらない」
DC電源のノイズ対策は、多くの回路設計・基板設計担当者の方が頭を悩ませるテーマです。当技術コラムでは、DC電源に乗るノイズの種類と発生のメカニズムを整理したうえで、「原因の切り分け方」「部品による対策」「基板パターン設計による対策」の3つの観点から、実務で使えるDC電源のノイズ対策を解説します。

DC電源に乗るノイズの正体
「DC電源のノイズ」とひと括りにされがちですが、実際には性質の異なる成分が重なっています。対策を的確に打つためには、まず相手を特定することが出発点です。
(1) リップル(スイッチング周波数成分)
スイッチング電源やDC-DCコンバータの動作周波数に対応した、比較的ゆるやかな電圧の脈動です。出力コンデンサの容量やESR(等価直列抵抗)、インダクタのリップル電流によって大きさが決まります。
(2) スパイクノイズ・リンギング(高周波成分)
スイッチング素子がON/OFFする瞬間に発生する高周波成分です。配線やビアが持つわずかな寄生インダクタンスと、急峻な電流変化(di/dt)が掛け合わさることで、スパイク状の電圧が発生します。DC電源のノイズ対策で最も厄介なのがこの成分であり、EMI試験で問題になるのも多くはここです。リップルと違い、コンデンサの容量を増やすだけでは減りません。
>>スイッチング電源におけるリンギングの原因と対策とは?
(3) 負荷変動による電圧変動
CPUやFPGA、モータなどが急激に電流を要求した際に生じる電圧のドロップやオーバーシュートです。厳密にはノイズというより電源品質(パワーインテグリティ)の問題ですが、周辺のアナログ回路から見れば外乱となります。
DC電源のノイズがアナログ回路に与える影響
デジタル回路は「0か1か」を判定するため、しきい値を超えない限りノイズは許容されます。一方でアナログ回路は、電圧の大きさそのものが情報を持ちます。電源ラインに乗ったノイズは、電源電圧の変動としてそのまま信号に重畳し、回路の性能を直接的に劣化させます。アナログ回路を用いた基板設計がノイズや温度変化の影響を受けやすいとされるのは、この性質によるものです。
- A/D変換の精度低下:基準電圧や電源に乗ったノイズは、変換結果のばらつきとして現れます。高分解能のADCほど1LSBに相当する電圧が小さくなるため、数mVのノイズでも下位ビットが埋もれてしまいます。
- センサ信号のS/N悪化:ひずみゲージや熱電対のように、もともと微小な信号を扱う回路では、増幅前に混入したノイズも一緒に増幅されてしまいます。
- アンプの電源除去比(PSRR)の限界:オペアンプやレギュレータは電源変動を抑える能力を持ちますが、その効果は高い周波数ほど低下します。スイッチングに伴う高周波ノイズに対しては、ICの性能に頼り切ることができません。
- 後段LDOでも取り切れない:スイッチング電源の後段にLDOを置いてノイズを落とす構成は有効ですが、これも高周波域では減衰量が確保できません。結局、ノイズは発生源と伝搬経路の側で抑える必要があります。
さらに近年は、スイッチング電源やデジタル回路とアナログ回路を1枚の基板に混載するデジアナ混載基板が主流です。ノイズ源と被害者が同じ基板の上に同居している以上、DC電源のノイズ対策は電源回路だけの問題ではなく、基板全体の設計課題として捉える必要があります。
>>アナログ基板とは?アナログ回路とデジタル回路の違い
対策の第一歩は「ノイズモードの切り分け」
DC電源のノイズは、伝わり方によってノーマルモード(ディファレンシャルモード)とコモンモードに分類されます。この切り分けができていないと、対策部品を選定しても効果が現れません。
| 項目 |
ノーマルモードノイズ |
コモンモードノイズ |
| 伝わる経路 |
+ラインと−ライン(GND)の間を往復する |
+・−の両ラインを同方向に流れ、筐体やFGへ抜ける |
| 主な要因 |
スイッチング電流のループ(急峻なdi/dt) |
スイッチングノードの電位変動(急峻なdv/dt)と浮遊容量 |
| 主な対策部品 |
π型フィルタ(C+L+C)、バイパスコンデンサ |
コモンモードチョークコイル、シールド |
| 確認方法 |
ライン間の電圧波形を測定する |
電流プローブでケーブル一括の電流を測定する |
一般に、DC-DCコンバータの入力ラインではノーマルモードノイズが支配的になるケースが多いため、まずはπ型フィルタでノーマルモードを抑え、残った成分についてコモンモード対策を検討する、という順序で進めます。
注意が必要なのは、ノイズは伝搬の途中でモードが変換されるという点です。基板上ではノーマルモードだったノイズが、GNDの電位差や配線のアンバランスによってコモンモードへ変わり、ケーブルから放射される——これはEMI試験でよく見られるパターンです。基板単体では見えなかった問題が、筐体に組み込んだ途端に顕在化するのはこのためです。
DC電源のノイズ対策①|原因を切り分ける進め方
やみくもに部品を追加する前に、ノイズの素性を測定で確認します。実務では以下の手順が有効です。
- 周波数から発生源を推定する。スイッチング周波数の整数倍であればコンバータ本体、それより高い帯域の振動成分であればターンオフ時のリンギングや寄生成分による共振が疑われます。
- 正しく測る。オシロスコープのプローブに付属する長いグランドリードは、それ自体が大きなループを作り、実際には存在しないリンギングを観測してしまいます。グランドスプリング等を用い、最短で測定することが前提です。
- ノイズの経路を特定する。近傍磁界プローブで基板上をなぞれば、どのループから放射されているかを確認できます。ケーブルに流れるコモンモード電流は電流プローブで確認します。
- 基板と筐体を切り分ける。ケーブルの引き回しや筐体への固定方法を変えてノイズが変化する場合、原因は基板単体ではなくシステム全体の構成にあります。
DC電源のノイズ対策②|回路・部品による対策
入力側:π型フィルタ
DC-DCコンバータの入力ラインは、スイッチングの基本波とその高調波によってノイズが発生する箇所です。ノーマルモード対策としては、コンデンサとインダクタによるπ型フィルタが基本構成となります。より高い周波数まで減衰量を確保したい場合には、貫通型の3端子フィルタを用いる方法もあります。
出力側・負荷側:デカップリングコンデンサ
負荷ICの直近には、デカップリングコンデンサを配置します。ここで重要なのは容量値そのものよりも、コンデンサのESL(等価直列インダクタンス)と実装ループを含めた高周波でのインピーダンスです。容量の異なるコンデンサを並列にする手法は一般的ですが、組み合わせによっては反共振が生じ、特定の周波数でインピーダンスが上昇する場合があります。
スナバ回路によるリンギングの抑制
リンギングを抑制するためにRCスナバ回路を追加することがありますが、ICのスイッチング端子から離して配置すると、配線インダクタンスによって発生したスパイクノイズを吸収できません。スナバ回路はICのスイッチング端子とGND端子の直近に配置し、電源ループを小さくすることで、はじめて効果的にノイズを吸収できます。「部品は載せたが効かない」の典型例です。
部品追加でノイズが「悪化」する落とし穴
落とし穴1:フェライトビーズと後段容量によるLC共振
フェライトビーズは高周波を熱に変える便利な部品ですが、後段のコンデンサとLC共振回路を形成し、共振周波数付近でかえってノイズを増幅することがあります。ダンピング用の抵抗を併用するなどの配慮が必要です。DC重畳電流によってインピーダンス特性が変化する点も見落とされがちです。
落とし穴2:入力フィルタと制御ループの相互作用
入力側にLCフィルタを追加すると、コンバータの制御ループとの相互作用によって動作が不安定になる場合があります。フィルタの追加時は、ダンピングを含めた安定性の検討が欠かせません。
落とし穴3:コンデンサの自己共振周波数を超えている
コンデンサは自己共振周波数を超えるとインダクタとして振る舞います。「パスコンを付けたのに高周波ノイズが減らない」場合、その周波数ではコンデンサとして機能していない可能性があります。
DC電源のノイズ対策③|基板パターン設計による対策
部品による対策には限界があります。DC電源のノイズは、そもそも基板のパターンが生み出しているケースが多いためです。ここからが本質的なノイズ対策となります。
(1) 電源ループを小さくする
スイッチング電源回路では、電流が流れる/止まるを繰り返すため、この電流ループが大きいとノイズが発生します。GNDが外側を回ってパターンが長くなっている配線は、大きなループを形成している典型例です。パターン幅を太くし、最短で配線することでループ面積が最小になり、放射ノイズが低減されます。また、ビアを介す場合は共振により効率が下がることもあるため、同一層で最小面積となるよう配線する必要があります。
(2) 入力コンデンサを裏面に配置しない
面積の都合で入力コンデンサ(パスコン)を基板の裏面に配置すると、ビアのインダクタンスによって電圧ノイズが発生し、パスコンの効果が逆に働いてしまいます。部品を「載せる場所」ではなく、「電流がどう流れるか」で配置を決めることが重要です。
(3) リターン電流の経路を確保する
高周波電流のリターンパスを信号線の直下に確保し、ループ面積を最小化することがノイズ抑制の基本です。多層基板では、各層の空きスペースをGNDで埋めて層間の結合を強化すると、基板全体のノイズ耐性が向上します。GNDプレーンがスリットや部品穴で分断されていると、リターン電流が迂回してループ面積が拡大し、ノイズ源になります。
(4) パワーGND(PGND)と信号用GND(AGND)を分離する
大電流が流れるパワーGNDと、微弱な信号を扱うシグナルGNDを分離することは、相互干渉を防ぐうえで不可欠な手法です。ただし単純に分ければよいわけではなく、高周波スイッチングノイズが多い入力部分のPGNDや、還流ダイオード近傍のPGNDの接続には注意を払う必要があります。分離の仕方を誤ると、かえってノイズが回り込む結果になりかねません。
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