基板設計において「配線を引く」という言葉は、しばしば誤解を招きます。信号は銅箔の上を流れるのではなく、信号線とリターンパスの間に形成される「電磁界」として伝搬するからです。この視点に立ったとき、設計者が真に制御すべき対象は「ループインピーダンス」に集約されます。
理想的なループとは何か
ループインピーダンス Z は、理想的な無損失路においては以下の式で表されます。

ここで重要なのは、ループ面積が大きくなれば自己インダクタンス L が増大し、インピーダンスが跳ね上がるという物理特性です。プロの設計者にとって、リターンパスを信号線の直下に配置するのは「マナー」ではなく、電磁界を閉じ込め、インダクタンスを最小化するための「必然」と言えます。
「不連続点」という名の落とし穴
ベタGNDの上を走っている限り、インピーダンスは安定しています。しかし、実務では必ず「不連続点」に直面します。
- スリット跨ぎ: GNDプレーンを分断するスリットを信号線が跨いだ瞬間、リターン電流は大きく迂回を強いられます。これはループ面積の急増を意味し、インピーダンスの不連続(スパイク)と放射ノイズ(EMI)の主因となります。
- ビアの遷移: 信号が層を移動する際、リターン電流も共に移動しなければなりません。近傍にステッチング・ビアやデカップリング・キャパシタがない場合、リターン電流は浮遊容量を介して遠回りをすることになり、ループインピーダンスを制御不能に陥れます。
PI(パワーインテグリティ)におけるループ
ループインピーダンスの概念は、高速信号伝送(SI)以上に、電源供給網(PI)においてその牙を剥きます。
ICの消費電流が急峻に変化する際、電源・GND間のループインピーダンスが高いと、いわゆる「ターゲットインピーダンス」を維持できず、激しい電源ノイズ(電圧ドロップやリンギング)が発生します。
パスコンの配置において「ICの近くに」と言われる真意は、「高周波成分が通るループ面積をいかに小さくし、寄生インダクタンスの影響を排除するか」に他なりません。
プリント基板の設計者が意識すべき「3つのポイント」
- パスコンのループを最短に:
ICの電源ピンからパスコン、そしてGNDプレーンへ戻るループ。この距離が長いと、インダクタンスによって過渡的な電流供給が間に合わず、電源電圧の揺れ(PDNの問題)を引き起こします。
- リターンパスの連続性:
層間移動(ビア)の際は、近くに「リターンビア」や「パスコン」を配置し、高周波リターン電流が層を跨いでスムーズに流れるルートを確保する必要があります。
- コモンモードノイズへの理解:
ループインピーダンスが高いと、そこに発生する電圧降下が「コモンモード電圧」となり、ケーブルなどを通じて外部へ放射されます。筐体設計を含めた全体最適には、この視点が欠かせません。
まとめ
ループインピーダンスを制する者は、基板のノイズを制します。
「ループを閉じる意識」を持つことは、単なる配線作業を「電磁界の制御」へと進化させます。美しい基板とは、配線が整然としているだけでなく、目に見えないリターン電流がストレスなく流れる基板のことではないでしょうか。
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