TVSダイオードとは?過電圧に強い保護素子の基礎知識
TVSダイオード(Transient Voltage Suppressor:過渡電圧抑制ダイオード)は、静電気放電(ESD)や雷サージ、スイッチング時に発生する過渡的な高電圧から、後段の繊細なICや回路を保護するための半導体素子です。回路設計において、製品の信頼性を左右する「守りの要」といえる部品です。
TVSダイオードが「過電圧に強い」理由
TVSダイオードの最大の特徴は、その極めて高い応答速度と、大きなエネルギーを瞬時に吸収する能力にあります。過電圧が印加されると、TVSダイオードはナノ秒(10億分の1秒)レベルの速さで低インピーダンス状態に切り替わり、有害な電流をGNDへバイパスさせます。これにより、保護対象のICに加わる電圧を「クランプ電圧」と呼ばれる安全なレベルまで抑制します。
一般的なダイオードが整流(電流を一定方向に流す)を目的としているのに対し、TVSダイオードは「異常電圧を叩き落とす」ことに特化した設計がなされています。そのため、静電気のような数千ボルトに達する瞬間的な電圧に対しても破壊されることなく、繰り返し回路を守り続けることができるのです。
特に外部インターフェース(USB、HDMI、センサー入力など)を備える基板では、TVSダイオードによる保護は必須です。この素子を適切に配置することで、フィールドでの故障率を劇的に下げることが可能になります。
TVSダイオードと他の保護素子(バリスタ・ツェナー)との違い
過電圧対策に使用される素子には、TVSダイオードの他に「ツェナーダイオード」や「チップバリスタ」があります。これらは一見似たような働きをしますが、特性を理解して使い分けないと、十分な保護性能を得られません。
ツェナーダイオードとの応答速度・耐サージ性の違い
ツェナーダイオードは、一定の電圧(ツェナー電圧)を維持する「電圧レギュレータ」としての用途が主です。一方、TVSダイオードはサージ保護に特化しており、静電気のような立ち上がりの鋭い過電圧に対して、ツェナーよりも遥かに速く応答します。また、TVSは瞬間的に大きな電流(ピークパルス電力)を吸収しても破壊されにくい設計がなされているため、保護素子としてはTVSが圧倒的に優れています。
チップバリスタと比較した際のメリット・デメリット
チップバリスタは安価で、高電圧のサージ保護にも対応できるため、電源ラインなどで多用されます。しかし、TVSダイオードと比較すると「クランプ電圧が高い(=保護対象のICに高い電圧がかかりやすい)」ことや、「繰り返しのサージ印加により特性が劣化しやすい」というデメリットがあります。
信号ライン、特に高速通信やアナログ信号の保護においては、クランプ性能が安定しており、繰り返し精度が高いTVSダイオードを選択するのが、現在の基板設計における定石です。
過電圧保護に失敗しないためのTVSダイオード選定のポイント
TVSダイオードは、単に「入っていれば安心」というわけではありません。回路の動作電圧や信号の性質に合わせて、適切なスペックを選択する必要があります。ここでは、設計者が必ずチェックすべき2つの重要指標を解説します。
動作電圧(Vrwm)とクランプ電圧(Vcl)の適正化
選定の第一歩は、回路の通常動作を妨げない「逆方向スタンドオフ電圧」の確認です。これは、TVSが動作を開始しない(漏れ電流が極小である)最大電圧を指します。例えば、5Vの信号ラインであれば、5V以上の製品を選びます。 一方で、最も重要なのが「クランプ電圧」です。これは過電圧が発生した際に、TVSが実際に抑え込んでくれる電圧値です。この電圧値が保護対象であるICの「絶対最大定格」を下回っていることを確認しなければ、TVSを実装していてもICが破壊されるリスクが残ります。
アナログ信号への影響を抑える「寄生容量」の確認
アナログ回路や高速通信(USB等)の設計において、TVSダイオードの「寄生容量」は無視できない要素です。TVSは内部にコンデンサ成分を持っており、これが大きいと信号波形をなまらせたり、高周波特性を悪化させたりします。
特にアナログ信号の精度を求める場合や、数GHz帯の高速通信ラインでは、0.5pF以下といった「低容量タイプ」のTVSを選定することが必須となります。
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本記事では、TVSダイオードの基礎から、その性能を最大限に引き出すための実装技術まで解説してきました。過電圧対策は、製品の寿命と信頼性を守るための「保険」ではなく、設計品質そのものです。
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